たまには作品の話 - 1. Calling

《Calling》2024年、紙にリトグラフ、700×1000mm
加川日向子 2024.06.27
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半年ぶりのリトグラフで、石版石を使うのは一年以上ぶりだった。大学の仕事を辞めてから版画をやるのも版画のことを考えるのも億劫になっていたけれど、ふと思い立って善福寺にあるリトグラフ工房の門を叩き、そこでの最初の一作目として制作した作品である。

この作品は制作前にイメージを固めず、なんとなく手を動かしながら画面を埋めていくように描いた。私が最後に大学で版画を制作してから善福寺工房を訪れるまでの半年の間に、いろいろなトラブルで疲弊・混乱した精神状態がなんとなくおさまってきて、そのような災いや人生の節目みたいなものを客観視できる状態まで落ち着いたのかもしれないと、この絵を見て思った。描いたものが鏡のように自分を写しとっていると感じるとき、とくに面白い作品ができているように思う。意図していないところで、何か普遍的な、本質的なテーマが出てくる気がするからだ。「個人的なことは政治的なこと(The personal is political)」のような?

描画した石版石(部分)、製版前

描画した石版石(部分)、製版前

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